トリコ上新庄店。
5月のとある日、ここでまた一人の若者の挑戦を見守る事となった。
訪問カット。
もともとはグループホーム利用者の保護者の方から、ある相談をいただいた事から始まった。美容院や散髪屋さんでのカットが困難で、幼少期より親御さんがずっと散髪を行っており、20歳になりグループホームへの入居の際に「ホーム入居後は天川さんがやってくれんのかな?」という相談をいただいた事から始まった。
「はい、できません(笑)!」
当然、他人の髪の毛など切った事のない私。出来てスキンヘッドくらいで、いい感じの仕上がりなど想像も出来ず当時自身で通っていた美容師さんへ相談した所、心よく引き受けてくれた。ご相談いただいたメンバーさんの他にも同様に美容院、散髪店が困難な方、行きつけの店がなくてお困りの方、担当者が辞めて困ってた方など、3~4名のホーム利用者さんでスタートした。それからもう6~7年は経つだろうか、2ヶ月に1回、こうしてホッとに数名の美容師の方がカットに来てくれている。
そして時が経ち、お母さん以外の散髪にも慣れて落ち着きを覚えた頃、メンバーの皆さんは地域の美容室、理容店へ旅立って行くのだ。
一人。
また一人。
そしてまた一人、と。
今回この旅立ちへの挑戦を決めた、Hさん。
Hさんはおよそ1年前、ホッとのヘルパーを通じてこの活動を知り、訪問カットの仲間入りをした方。
実家で散髪は行うものの、本人の抵抗でその現場はなかなか壮絶な現場だったと親御さんからお聞きしている。
それに追い打ちをかけるように、半端ない毛量と伸びの速さ。
自閉症のHくんの口癖は「やばっ!」の連呼。ヤバい時でも楽しい時でも「やっばー!!やば!やば!」。
初めて来た当時は室内入るのも抵抗して、途中で逃げたりなどしていたが、ホッとで訪問美容を1年続ける中で徐々に落ち着きも見られるようになって、ここ最近2回では全く立ち上がる事なく散髪を終えれるようになってきていた。
そしてある日、お母さんからの提案。
美容室いけるかなぁ~、と言った時に快く「全然いけますよ!!ぜひ行きましょう!来てくださいよ!!」と言ってくれたのが・・・
この美容室の店員さんのTさん。
見た目はちょとイカつい、中身は熱い本当にいい兄ちゃん。(写真上)
そして、勢いそのままにこの日が現実となった。
美容院へのデビュー戦だ!
もちろん美容室経験はゼロ。
倒れる椅子(美容室、歯医者などの)に座った経験もゼロというHさん。ドライヤー、バリカンが嫌い。
シャンプーできるかな?店に入れるかな?
色々な不安もあるがとりあえずやってみよ!勢いで解決。それがホッと魂。
当日、お店に歩いてきた流れで、美容師兄ちゃん、私、ヘルパー、お母さんで誘導しそのままサッと散髪開始。
おおーっ!入れた!切れた!
嫌いなバリカンも唇を噛みしめてクリア!!ここまではパーフェクト!
そしてカットが終わりかけの時、ヘルパー中田が数枚の写真を取り出し、「シャンプー行きますよ大作戦!」
じっとみつめるHさん。これは理解できているぞ!いけるぞ!
次シャンプーをあっちでやりますよー、と問いかけると・・・
ご機嫌な様子で、オッケーと!!
言ってる感じがしたのだが・・。
とりあえずここからバタつく事15分。
「背もたれが倒れるなんて聞いてねーよ!」「シャンプーはお風呂だろ!!」「仰向けでシャンプーって何だ!!」
きっとこんな想いで必死な抵抗をしていたんだろう、「やばっ!!」の音量もマックスだ。
あちらこちらと逃げ、表情も徐々に変化していく。
次回からを考えて、私達も諦めて今回の挑戦を終了した。
なかなかのバタつきでお店を一時的にジャックしてしまったが、そんな私達にも「全然大丈夫っす!いけますよ!」と美容師Tさんは声をかけてくれた。
カットだけでも二重丸!!出来たらシャンプーも・・・、とちょっと欲張り過ぎました。ごめんなさいね!Hさん。
男前になりましたねー。最後にお店の受付前で、スッキリ頭でハイ、チーズ!!
この写真、何度見ても
「みんなー、次はシャンプーしちゃうよー。お楽しみにー!」
とHさんが言っているようで仕方がない。
次回からいつもの場所にいないと思うとちょっと寂しくなるが、こういう旅立ちの瞬間に立ち会えた事が本当に嬉しい気持ちになった。
一方で、2ヶ月に1回、いつもの場所で出会える友人もいる。ダブルS君だ!
ホッと訪問カットのパイオニア達。パイオニアはタンクトップで年中カットする。
いつもの場所でS君は言っている。
お母さんカットから旅立つ新人たちよ!
俺たちはここで待ってるぜ!!
*欲張りTEKAWA*